【CAKE & COFFEE CRAFTSMAN】お菓子の可能性を追い求めて
『わたしの散歩みち』まちの案内人が紹介するあのお店のこと、あの店主のこと。このまちの「好き」を再発見する散歩へ出かけよう。研屋町周辺の案内人は「chubby×eight」の尾﨑朝子さん。今回は、尾﨑さんのお気に入りスポットだという『CAKE & COFFEE CRAFTSMAN』を深掘りしてみた。
【案内人】尾﨑朝子 さん
研屋町周辺の案内人は、古着屋『chubby×eight』の店主 尾﨑朝子さん。ていねいに集められた一着一着は触るだけで心地よい気持ちにさせてくれる。尾﨑さんならではの独特な嗅覚を駆使し、お気に入り店を紹介してくれた。
コーヒーとニコイチのお菓子
研屋町にある『第二金座ビル ボタニカ』からすぐの場所、『CAKE & COFFEE CRAFTSMAN』が2021年12月にオープンした。「Coffeeとお菓子の対等で美味しい関係」という想いを掲げるシェフ・パティシエの石橋 海さん。ドイツ菓子やフランス菓子の個人店、ホテル、珈琲店、喫茶店などさまざまな現場で修行してきたからこそたどり着いた「いま」を教えてもらった。
『CRAFTSMAN』という店名の由来は「これまでの経験にしばられず、新しいお菓子を創造して表現していきたい」という想いから。石橋さんの作るお菓子は季節ごとに表情を変え、ドイツ菓子のようなどっしりとした濃厚さと、フランス菓子のような華やかな上品さを同時に感じさせてくれる。
「奥さんがコーヒー店で働いていて、僕も以前は喫茶店でパティシエとして働いていました。ケーキを食べるときって、コーヒーとともに味わうことが多いですよね。軽い味わいのケーキだとコーヒーに負けてしまうし、重すぎると食べづらい。"コーヒーとケーキの最強のペアリング"を目指して、試行錯誤しています」
組み合わせこそが“職人技”
お菓子との出会いは、石橋さんがまだ幼い頃。母が誕生日ケーキを作ってくれたのを手伝ったことがきっかけだ。「粉が形になるなんて!と、驚いたことを覚えています。食べてもおいしいし、何より幸せな気持ちになったんです。進路を決める時にたまたまパティシエが主役のドラマを見ていて、幼少期を思い出し"自分もやれるんじゃないかな?”と、目指しました」。単純な動機だったと笑う石橋さんだが、製菓学校に通ったあとは、有名個人店のパティスリーやホテル、ハンドドリップのコーヒー店、老舗の喫茶店と、約17年間ジャンルにとらわれることなく確かな経験を積んできた。
「普通にある素材をいかに美味しくするのかが職人」と石橋さんが話す通り、シンプルな装いのケーキにフォークを入れると複雑な味が口の中に広がる。爽やかなフルーツの酸味と濃厚なチョコレートが合わさっていたり、層ごとに味の違う生地が絶妙なハーモニーを生み出していたりと、食べるごとに驚きがある。
「なぜこんな目新しい組み合わせが思いつくんですか?」と尋ねたら、「お菓子は科学なんです。一つひとつどういう仕組みで仕上がるかを理解しているからこそ、頭の中に描いたものが表現としてポンッと出てくるのかもしれません」と教えてくれた。バターをどのタイミングで合わせればいいのか、生地はなぜ膨らむのか、など構造がどういうものになっているか理解がなによりも大事だそう。「素材の組み合わせは無限にあります。どう組み合わせるかは作る人の個性で、腕の見せ所ですね」。自由な発想で生まれてくるお菓子は、石橋さんが「挑戦してみたい」と思う場所で働き、真摯に腕を磨いてきたからだろう。
訪れる度に新しい味を発見
甘く心を満たしてくれる、お菓子。気軽にテイクアウトして家で食べることもあれば、フルコースのあとにお皿に美しく盛られたデセールをいただいたり、喫茶店で友人とおしゃべりをしながら楽しむことも。気がつけば私たちの生活には欠かせない存在になっていて、いろんなシチュエーションに溶け込んでいる。
石橋さんは、「お菓子はただおいしく食べてもらうだけの存在ではない。お菓子は人とのつながりも生むものだ」というのを次第に感じ、そんなお菓子の持つ「可能性」を見つめ続けてきた。「味や素材、作り方はもちろん大事で、きっちりと学んできました。ただ、それ以上にお菓子というのは可能性があると思います。美味しいスイーツを単体で食べるよりも、コーヒーに合う、料理に合う、というお菓子がお店で出てきたら"おいしい時間を過ごせた"という思い出は増えますよね。"これとこれが合うんだ!"というような、お菓子を通じた新しい発見を生み出せたらと思います」
店内にはイートインスペースも2席あり、コーヒーと一緒に楽しめる。馴染みの焙煎士とともに豆の配合を考えて作ったというオリジナルの『CRAFTSMAN original blend coffee』は、しっとりと味わい深いケーキや焼き菓子と相性抜群だ。ケーキや焼き菓子以外にも、月に一回はデニッシュを提供している。2022年の夏頃には、小さな窓から気軽にコーヒーやお菓子を買えるテイクアウトも予定している。
「今の僕があるのは、妻をはじめ、出会ってきた人や支えてくれた人たちのおかげです。一人だと店を持つなんてできなかったと思います。今の悩みは作りたいものがたくさん思い浮かぶのに、時間と体がなかなか追いつかないところです(笑)。旬の素材も季節によってさまざまなので、それを活かして、コーヒーに合う新しいお菓子を表現できたらなと思います」
【案内人からのおすすめポイント】
小さなお店にケーキと焼き菓子たちがかわいらしく並んでいます。お店の方もとても穏やかな感じで素敵です。私のおすすめはチョコのテリーヌとシンプルなお味のショートケーキ!
撮影:森島 吉直/モデル:鈴木 茉吏奈/衣装提供:chubby×eight
フリーランスの編集・ライターとして雑誌や広告に携わる。次世代につなげたい伝統・文化や、大切に育まれた人柄・物事を、本質から伝えたいと日々精進中。
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